そうか。ついにわかってしまった。僕は取り残された側だったのか。
今日、東海道新幹線で隣の席に座っていた大学生くらいの女性が、目にも止まらぬ速さでスマホを操作していた。フリック入力ってやつで、今やめずらしいことでも何でもないのだが自分は正直に言えば苦手だ。
基本的にPCで文章を作成している。感覚的には、YESかNOで答えられるようなものはスマホで返すが、そうでなければPCに頼っている。だからPCを持ち歩かないわけにはいかない。
もっともらしい理由をあげさせてもらえるなら、まずもって適当な文章で誤解を与えたくないからだ。短文で正確に返そうと思うと、前提や感情が抜け落ちる。前提や感情が抜け落ちると相手にはキツイ印象を与えてしまう。だから丁寧に返そうと思えば少々長くなってしまうことは致し方ない。元来フリック入力は文章作成には適していないと考えており、これは習熟の問題ではなくUI/UXの問題だと位置付けていた。だから、それはすなわち僕の問題ではないと。
ところが、今日隣にいた方が僕の常識を壊した。とんでもない速度で驚いた。これが進化ってやつなのだろうか。あの速度を手に入れられるなら、僕はPCを開く回数が激減すると確信するに至った。にもかかわらず、習得する気が全く起きない。負けを認めて投了したかのような気分。
これが、まぎれもなく取り残された側の真理なんだと気づいた。
一応弁明しておきたいのだが、僕はPCのタイピングは早い。寿司打をやれば上位5%には入る。1万人いたら500番以内。
だけどそれはきっと、机とイスとPCが与えられて、8時半になったらヨーイドンで始める仕事を前提としたスキルであって、例のごとく列車で移動中でも地球の裏側でもお散歩中でもトイレの個室でも発揮できるスキルではない。今の世界はそういうスキルを求めている。
あぁ、きっと取り残されたんだ。QWERTYの物理配列こそ正義と言ってるこの数年の間に、スマホネイティブの10代の子たちに負けちゃったんだな。
特に象徴的だったのは、本来は太くて短いというイメージの親指が、盤上を縦横無尽に動き回る飛車角のように目にもとまらぬ速さでシャキシャキと動いていたこと。彼女の特徴的なネイルを差し置いたとしても、スラっと長く伸びた親指は引き締まったアスリートの体幹を見ているようで、明らかに僕のそれとは形や動きが違うものだった。
弟子入りしたい。