非侵襲的検査の歴史

広義には、問診・触診・尿検査等も非侵襲的検査ではあるが、ここではレントゲン以降を語りたい。

今から約130年前、1895年11月8日 ヴィルヘルム・レントゲンが偶然X線を発見。当時は真空管でのカトード線(陰極線)を発見したばかりで、カトード線が引き起こす副次的な現象を調べるのが物理学者たちのブームだった。カトード線は真空内を陰極(カトード)から陽極(アノード)に向けて発せられる電子ビームのことで、陰極に高い負の電圧をかけると自由電子が放出され、電場によって陽極側に加速する。

レントゲンはこの事象を確認していた際に、なぜか真空管の外にある蛍光板が光っていることに気づいた。カトード線自体は物体を透過する性質をもたない(きわめて低い)ので、カトード線ではない何か未知の放射線が発生していると推定した。

未知の線、X線といったん名付けた。
真っ黒い紙で覆った真空管のガラスを透過して外部の蛍光板が光っていた。物体をすり抜けていることは明らかだった。研究を進めるうちに、以下のことがわかった。

・X線は目には見えない。
・X線は紙や木、肉などの柔らかい物質を透過するが、骨や金属のような密度の高い物質には遮られる。
・X線は直進する。
・X線は電場や磁場の影響は受けない。(電荷をもたない)

その後まもなく、世界で初めてのレントゲン写真が誕生する。あの有名な左手の写真は、妻であるアンナの手。レントゲンは、妻の左手を写真フィルムの上に置いてX線を照射した。手の皮膚・細胞を通り抜けてきたX線はその先にあるフィルムを黒く変色させ、骨や指輪にぶつかって遮られた部分は白いまま残す。指輪と骨だけがくっきりと白い写真となった。今は撮影技術がデジタル化されているものの、基本的には当時と同じ技術がそのまま利用されているのがいわゆるレントゲン写真。

次に登場したのが超音波検査。1917年頃、潜水艦を探知するための技術として第一次世界大戦中にフランスの物理学者がその基礎を確立。ソナーってやつだ。物体に音波を当て、その反射を利用して位置や形状を検出する手法。医学への応用の第一人者はオーストリアの神経科医、スコットランドの産婦人科医等、諸説あるようだ。医療の分野のなかでも特に使われたのが、産婦人科領域。妊婦の腹部をスキャンして胎児の画像を作成する。今でも超音波検査が主流である。

1970年代になると、ついにCTスキャン誕生。レントゲンと同じX線を応用して、このころになるとコンピュータ技術が急速に発達し、イギリスのエンジニアであるゴッドフリー・ハウンズフィールドが、「X線あてまくったら断層画像とれるんじゃね?」と考えた。最初に開発されたCTスキャナーは、現在のような大型・筒形で全身が入るものではなく、患者の頭部だけが入る小型・箱型のもの。撮影自体は数分だったが、現代と比べればコンピュータの処理性能は格段に低いため、1枚の断層画像を作るのに数時間を要した。それでも脳の腫瘍を非侵襲的に確認できることは革命に違いなかった。

X線には欠点があった。わずかではあるが被爆の可能性があること。また、骨等の密度の高い組織をくっきり映すことはできても、軟部組織の微細な構造をくっきり撮ることは難しかった。

そこで登場したのがMRI(磁気共鳴画像法)。MRIは強力な磁場と電磁波(ラジオ波)を使用して体内の水素原子の反応を計測する手法。これはいろいろ調べたが、原理を理解するのが激ムズだった。多分に推測もあるが僕の理解ではこうだ。

まず、僕らの体内は70%が水でできている。水は水素原子と酸素原子で構成されている。この水素原子たちをどうにか操りたいと。
水素原子をはじめとした素粒子は、磁石に反応するスピン性質をもっている。体内の無数の水素原子たちは、普段は好き勝手な方向を向いているが、MRI装置によって強力な磁場を発生させると、軍隊のように一糸乱れず一方向に向き直させることができる。この「スピン性質で向き直させる」ことによって発せられる信号が重要で、信号の強さや分布を解析すると、内部構造を詳細に把握することができる。

もちろん一度の整列だけでは精度が低いので、解散させてはまた強力な磁場で整列させることを繰り返して、信号を解析しまくる。解散させる際に「ラジオ波」を使う。ラジオ波は電磁波の一種で、比較的低い周波数(3キロヘルツ~300ギガヘルツ)かつ波長が長く体内を通過しやすい性質を持っている。一度整列させた水素原子たちにラジオ波を送ると、ラジオ波は体内の最深部にいる水素原子にまで届き、共鳴が起きる。共鳴が起きると無数の水素原子たちはまた適当な向きに変わるので、そこでまた強力な磁場でスピン現象を起こし隊列を作らせてその信号を計測すると。

うーん、わかったようでわからない、非侵襲的検査の歴史。

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