ビヨンド・ユートピア 脱北@TOHOシネマズ シャンテ
脱北ドキュメンタリー。再現映像は一切ない。ガチの脱北。
韓国で脱北者を支援するキム牧師、キム牧師の支援によって、命懸けの脱北をするロさん一家。この一家、5人家族。夫婦・子ども二人・そんで80歳のおばあちゃん。
よく我々がこの手のドキュメンタリーで見る豆満江(中国と北朝鮮の国境となる川)を渡るシーンはないのだが、渡り切ったあとの白頭山から物語は始まる。僕としては、豆満江を渡って中国まで行けば脱北成功と考えていたのだが、全くそうではなかった。
中国側の国境付近には、当然中国の国境警備隊がいる。中国と北朝鮮は中朝友好条約があり、また同じイデオロギーであることから、脱北者を見つけて北朝鮮に引き渡すことが仕事になっている。国境を抜けたとしても、警察がうじゃうじゃする街中にも行けない。
じゃあ中国に逃げてどうすんの?って話になる。
中国の最北端から最南端に縦断するようにしてベトナムまで行く。ロさん一家はキムさん配下の信頼できるブローカーをつなぐことで、数千キロの南北縦断を車で移動できたわけだが、そうでもない限りは不可能って話だ。
で、ベトナムに着いたら安心かと言えばそうでない。ベトナムからラオスまでは徒歩で山を三つ越えて、ラオスからタイはボートで川を渡る。ベトナムもラオスも中国・北朝鮮とは同盟関係って程ではないと思うが、おそらく難民・脱北支援プログラムをもっていないんだと思われ、真夜中に幼い子どもと老婆を伴っての決死の大移動。
タイまで行ければゴール。あとはタイの警察に捕まればよい。「北朝鮮から脱北してここまで来ました」と言えば、脱北者支援プログラムが動き出し、韓国に移送される。韓国は「すべての朝鮮人を受け入れる」と宣言しているため。
だったらそんな回りくどい行き方をせず、北朝鮮から韓国まで行けば最短ルートじゃんという話になるが、北緯38度線(北と韓国の軍事境界線)には地雷がびっしり埋めてあってそこを選択するのは死を意味する。
まとめ。つまりこういうこと。
だけれども、どっちが幸せなのかはわからない。というのが僕の感想。北朝鮮にいる人たちは、生まれたときから北朝鮮にて世界の情報はシャットアウトされており、あるいは外の世界の情報が入ろうものなら「フェイク」だと思うように教育されているのだから、「これが幸せ」だと理解して生きている。金一家を神と位置付けており、誰一人それを疑っていない。
今回のロさん一家も、実は脱北したくて脱北しているわけではない。彼らの親族に脱北者がいることが北朝鮮政府に知れてしまい、親族全員が政治犯になり処刑される可能性があったから逃げるしかなかったにすぎない。
幼い子ども二人と80歳のおばあちゃんを取り上げるのはちょっとずるっこいなーと思いつつ、最後は泣いてしまった。
おばあちゃんは、脱北して韓国に渡ったあとも、「金正恩さまはお若くしてご立派で、私たち国民が未熟がゆえに国が発展しなかった。金正恩さまは指導者として素晴らしく尊敬している。」と言っている。僕らから見れば洗脳されているって感じだが、生まれてから死ぬまでの一生において「尊敬できる指導者の国で暮らしていると思い続けることができる」という一点においては、日本国民の幸福は負けているのかもしれないなとすら思った。
北朝鮮からの脱北者を強制送還する姿勢を崩さない中国に経済制裁を科してやりたいです。
中国が脱北者を北朝鮮ではなく韓国に送還するようななれば経済制裁を解除するものとします。